うがい》のうちでいつか一度じゃないのよ。近いうちなの。もう少ししたらのいつか一度なの」
「ますます悪くなるだけだ。近き将来において蛮勇なんか亭主の前で発揮された日にゃ敵《かな》わない」
「いいえ、あなたのためによ。だから先刻《さっき》から云ってるじゃないの、夫のために出す勇気だって」
 真面目《まじめ》なお延の顔を見ていると、津田もしだいしだいに釣り込まれるだけであった。彼の性格にはお延ほどの詩がなかった。その代り多少気味の悪い事実が遠くから彼を威圧していた。お延の詩、彼のいわゆる妄想は、だんだん活躍し始めた。今まで死んでいるとばかり思って、弄《いじく》り廻していた鳥の翅《つばさ》が急に動き出すように見えた時、彼は変な気持がして、すぐ会話を切り上げてしまった。
 彼は帯の間から時計を出して見た。
「もう時間だ、そろそろ出かけなくっちゃ」
 こう云って立ち上がった彼の後《あと》を送って玄関に出たお延は、帽子《ぼうし》かけから茶の中折を取って彼の手に渡した。
「行っていらっしゃい。小林さんによろしくってお延が云ってたと忘れずに伝えて下さい」
 津田は振り向かないで夕方の冷たい空気の中に出た
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