のでも何でもなかった。彼はただ「はあそうかい」と云ったぎりであった。
「お気に召したらどうぞ温泉へも持っていらしって下さい」
「そうして時々お前の親切でも思い出すかな」
「しかし宿屋で貸してくれる※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍の方がずっとよかったり何かすると、いい恥っ掻きね、あたしの方は」
「そんな事はないよ」
「いえあるのよ。品質《もの》が悪いとどうしても損ね、そういう時には。親切なんかすぐどこかへ飛んでっちまうんだから」
 無邪気なお延の言葉は、彼女の意味する通りの単純さで津田の耳へは響かなかった。そこには一種のアイロニーが顫動《せんどう》していた。※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍《どてら》は何かの象徴《シンボル》であるらしく受け取れた。多少気味の悪くなった津田は、お延に背中を向けたままで、兵児帯《へこおび》の先をこま結びに結んだ。
 やがて二人は看護婦に送られて玄関に出ると、すぐそこに待たしてある車に乗った。
「さよなら」
 多事な一週間の病院生活は、この一語でようやく幕になった。

        百五十四

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