ありのままを伺いさえすれば、それで念晴《ねんばら》しになるんだから」
「本来が見舞で、用事はつけたりなんだよ、いいかね」
「いいわ、どっちでも」
 津田は夫人の齎《もたら》した温泉行の助言《じょごん》だけをごく淡泊《あっさ》り話した。お延にお延流の機略《きりゃく》がある通り、彼には彼相当の懸引《かけひき》があるので、都合の悪いところを巧みに省略した、誰の耳にも真卒《しんそつ》で合理的な説明がたやすく彼の口からお延の前に描き出された。彼女は表向《おもてむき》それに対して一言《いちごん》の非難を挟《さしは》さむ余地がなかった。
 ただ落ちつかないのは互の腹であった。お延はこの単純な説明を透《とお》して、その奥を覗《のぞ》き込もうとした。津田は飽《あ》くまでもそれを見せまいと覚悟した。極《きわ》めて平和な暗闘が度胸比べと技巧比べで演出されなければならなかった。しかし守る夫に弱点がある以上、攻める細君にそれだけの強味が加わるのは自然の理であった。だから二人の天賦《てんぷ》を度外において、ただ二人の位地《いち》関係から見ると、お延は戦かわない先にもう優者であった。正味《しょうみ》の曲直を標準にし
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