「お前どこかで会ったのかい」
「いいえ」
「じゃどうして知ってるんだ」
お延は答える代りに訊《き》き返した。
「奥さんは何しにいらしったんです」
津田は何気なく答えた。
「そりゃ今話そうと思ってたところだ。――しかし誤解しちゃ困るよ。小林はたしかに来たんだからね。最初に小林が来て、その後へ奥さんが来たんだ。だからちょうど入れ違になった訳だ」
百四十七
お延は夫より自分の方が急《せ》き込んでいる事に気がついた。この調子で乗《の》しかかって行ったところで、夫はもう圧《お》し潰《つぶ》されないという見切《みきり》をつけた時、彼女は自分の破綻《ぼろ》を出す前に身を翻《ひる》がえした。
「そう、そんならそれでもいいわ。小林さんが来たって来なくったって、あたしの知った事じゃないんだから。その代り吉川の奥さんの用事を話して聴《き》かしてちょうだい。無論ただのお見舞でない事はあたしにも判ってるけれども」
「といったところで、大した用事で来た訳でもないんだよ。そんなに期待していると、また聴いてから失望するかも知れないから、ちょっと断っとくがね」
「構いません、失望しても。ただ
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