引き返してしまったので、軽い失望の間に、夕食《ゆうめし》の時間が来るまで、待ち草臥《くたび》れたせいか、看護婦の顔を見るや否や、すぐ話しかけた。
「ようやく飯か。どうも一人でいると日が長くって困るな」
 看護婦は体《なり》の小《ち》さい血色の好くない女であった。しかし年頃はどうしても津田に鑑定のつかない妙な顔をしていた。いつでも白い服を着けているのが、なおさら彼女を普通の女の群《むれ》から遠ざけた。津田はつねに疑った。――この人が通常の着物を着る時に、まだ肩上《かたあげ》を付けているだろうか、または除《と》っているだろうか。彼はいつか真面目《まじめ》にこんな質問を彼女にかけて見た事があった。その時彼女はにやりと笑って、「私はまだ見習です」と答えたので、津田はおおよその見当を立てたくらいであった。
 膳を彼の枕元へ置いた彼女はすぐ下へ降りなかった。
「御退屈さま」と云って、にやにや笑った彼女は、すぐ後《あと》を付け足した。
「今日は奥さんはお見えになりませんね」
「うん、来ないよ」
 津田の口の中にはもう焦《こ》げた麺麭《パン》がいっぱい入っていた。彼はそれ以上何も云う事ができなかった。
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