院に向って動いていた。
堀の宅《うち》から医者の所へ行くには、門を出て一二丁町東へ歩いて、そこに丁字形《ていじけい》を描いている大きな往来をまた一つ向うへ越さなければならなかった。彼女がこの曲り角へかかった時、北から来た一台の電車がちょうど彼女の前、方角から云えば少し筋違《すじかい》の所でとまった。何気なく首を上げた彼女は見るともなしにこちら側《がわ》の窓を見た。すると窓硝子《まどガラス》を通して映る乗客の中に一人の女がいた。位地《いち》の関係から、お延はただその女の横顔の半分もしくは三分の一を見ただけであったが、見ただけですぐはっと思った。吉川夫人じゃないかという気がたちまち彼女の頭を刺戟《しげき》したからである。
電車はじきに動き出した。お延は自分の物色に満足な時間を与えずに走り去ったその後影《うしろかげ》をしばらく見送ったあとで、通りを東側へ横切った。
彼女の歩く往来はもう横町だけであった。その辺の地理に詳しい彼女は、いくつかの小路《こうじ》を右へ折れたり左へ曲ったりして、一番近い道をはやく病院へ行き着くつもりであった。けれども電車に会った後《あと》の彼女の足は急に重くなっ
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