「はい」と応じてすぐ立ったが、敷居の所で津田を顧みた。
「何の用でしょう」
津田にも解らなかったその用を足すために下へ降りて行った夫人は、すぐまた上って来ていきなり云った。
「大変大変」
「何が? どうかしたんですか」
夫人は笑いながら落ちついて答えた。
「秀子さんがわざわざ注意してくれたの」
「何をです」
「今まで延子さんが秀子さんの所へ来て話していたんですって。帰りに病院の方へ廻るかも知れないから、ちょっとお知らせするって云うのよ。今秀子さんの門を出たばかりのところだって。――まあ好かった。悪口でも云ってるところへ来られようもんなら、大恥《おおはじ》を掻《か》かなくっちゃならない」
いったん坐《すわ》った夫人は、間もなくまた立った。
「じゃ私《わたし》はもうお暇《いとま》にしますからね」
こんな打ち合せをした後でお延の顔を見るのは、彼女にとってもきまりが好くないらしかった。
「いらっしゃらないうちに、早く退却しましょう。どうぞよろしく」
一言《ひとこと》の挨拶《あいさつ》を彼女に残したまま、夫人はついに病室を出た。
百四十三
この時お延の足はすでに病
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