と思います」
「そんな事はあなたが知らないでもいいのよ。まあ見ていらっしゃい、私《わたし》がお延さんをもっと奥さんらしい奥さんにきっと育て上げて見せるから」
 津田の眼に映るお延は無論不完全であった。けれども彼の気に入らない欠点が、必ずしも夫人の難の打ち所とは限らなかった。それをちゃんぽんに混同しているらしい夫人は、少くとも自分に都合のいいお延を鍛《きた》え上げる事が、すなわち津田のために最も適当な細君を作り出す所以《ゆえん》だと誤解しているらしかった。それのみか、もう一歩夫人の胸中に立ち入って、その真底《しんそこ》を探《さぐ》ると、とんでもない結論になるかも知れなかった。彼女はただお延を好かないために、ある手段を拵《こしら》えて、相手を苛《いじ》めにかかるのかも分らなかった。気に喰わないだけの根拠で、敵を打ち懲《こ》らす方法を講じているのかも分らなかった。幸《さいわい》に自分でそこを認めなければならないほどに、世間からも己《おの》れからも反省を強《し》いられていない境遇にある彼女は、気楽であった。お延の教育。――こういう言葉が臆面《おくめん》なく彼女の口を洩れた。夫人とお延の間柄を、
前へ 次へ
全746ページ中540ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング