思って――」
「そんな事を思ってるもんですか、なんぼ私《わたくし》だって」
「いえ、思っているのと同《おん》なじだというのです。実際どこにも変りがなければ、そう云われたってしようがないじゃありませんか」
津田にはもう反抗する勇気がなかった。機敏な夫人はそこへつけ込んだ。
「いったいあなたはずうずうしい性質《たち》じゃありませんか。そうしてずうずうしいのも世渡りの上じゃ一徳《いっとく》だぐらいに考えているんです」
「まさか」
「いえ、そうです。そこがまだ私《わたし》に解らないと思ったら、大間違です。好いじゃありませんか、ずうずうしいで、私はずうずうしいのが好きなんだから。だからここで持前のずうずうしいところを男らしく充分発揮なさいな。そのために私がせっかく骨を折って拵《こしら》えて来たんだから」
「ずうずうしさの活用ですか」と云った津田は言葉を改めた。
「あの人は一人で行ってるんですか」
「無論一人です」
「関は?」
「関さんはこっちよ。こっちに用があるんですもの」
津田はようやく行く事に覚悟をきめた。
百四十二
しかし夫人と津田の間には結末のつかないまだ一つの
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