味も悪くしなければならなかった。たといこの態度が、彼に対する反感を代表していないにせよ、その奥には何があるか解らなかった。今その奥に恐るべき何物がないにしても、これから先話をしているうちに、向うの心持はどう変化して来るか解らなかった。津田は他《ひと》から機嫌《きげん》を取られつけている夫人の常として、手前勝手にいくらでも変って行く、もしくは変って行っても差支《さしつか》えないと自分で許している、この夫人を、一種の意味で、女性の暴君と奉《たてま》つらなければならない地位にあった。漢語でいうと彼女の一顰一笑《いっぴんいっしょう》が津田にはことごとく問題になった。この際の彼にはことにそうであった。
「今朝《けさ》秀子さんがいらしってね」
 お秀の訪問はまず第一の議事のごとくに彼女の口から投げ出された。津田は固《もと》より相手に応じなければならなかった。そうしてその応じ方は夫人の来ない前からもう考えていた。彼はお秀の夫人を尋ねた事を知って、知らない風をするつもりであった。誰から聴いたと問われた場合に、小林の名を出すのが厭《いや》だったからである。
「へえ、そうですか。平生あんまり御無沙汰《ごぶ
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