さた》をしているので、たまにはお詫《わび》に上らないと悪いとでも思ったのでしょう」
「いえそうじゃないの」
津田は夫人の言葉を聴《き》いた後で、すぐ次の嘘《うそ》を出した。
「しかしあいつに用のある訳もないでしょう」
「ところがあったんです」
「へええ」
津田はこう云ったなりその後《あと》を待った。
「何の用だかあてて御覧なさい」
津田は空《そら》っ惚《とぼ》けて、考える真似《まね》をした。
「そうですね、お秀の用事というと、――さあ何でしょうかしら」
「分りませんか」
「ちょっとどうも。――元来私とお秀とは兄妹《きょうだい》でいながら、だいぶん質《たち》が違いますから」
津田はここで余計な兄妹関係をわざと仄《ほの》めかした。それは事の来《く》る前に、自分を遠くから弁護しておくためであった。それから自分の言葉を、夫人がどう受けてくれるか、その反響をちょっと聴いてみるためであった。
「少し理窟《りくつ》ッぽいのね」
この一語を聞くや否や、津田は得《え》たり賢《かし》こしと虚《きょ》につけ込んだ。
「あいつの理窟と来たら、兄の私でさえ悩まされるくらいですもの。誰だって、とてもおと
前へ
次へ
全746ページ中497ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング