の方が結構だわね」
 お秀は冷然として話を切り上げた。お延は胸の奥で地団太《じだんだ》を踏んだ。せっかくの努力はこれ以上何物をも彼女に与える事ができなかった。留守《るす》に彼女を待つ津田の手紙が来ているとも知らない彼女は、そのまま堀の家を出た。

        百三十一

 お延とお秀が対坐《たいざ》して戦っている間に、病院では病院なりに、また独立した予定の事件が進行した。
 津田の待ち受けた吉川夫人がそこへ顔を出したのは、お延|宛《あて》で書いた手紙を持たせてやった車夫がまだ帰って来ないうちで、時間からいうと、ちょうど小林の出て行った十分ほど後《あと》であった。
 彼は看護婦の口から夫人の名前を聴《き》いた時、この異人種《いじんしゅ》に近い二人が、狭い室《へや》で鉢合《はちあわ》せをしずにすんだ好都合《こうつごう》を、何より先にまず祝福した。その時の彼はこの都合をつけるために払うべく余儀なくされた物質上の犠牲をほとんど顧みる暇さえなかった。
 彼は夫人の姿を見るや否や、すぐ床の上に起き返ろうとした。夫人は立ちながら、それを止《と》めた。そうして彼女を案内した看護婦の両手に、抱えるよ
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