眼に、不思議と思われる事がただ一つあった。
「一番家と釣り合の取れている堀の母が、最も彼女を手古摺《てこず》らせると同時に、その反対に出来上っているお秀がまた別の意味で、最も彼女に苦痛を与えそうな相手である」
玄関の格子《こうし》を開けた時、お延の頭に平生からあったこんな考えを一度に蘇《よみが》えらさせるべく号鈴《ベル》がはげしく鳴った。
百二十四
昨日《きのう》孫を伴《つ》れて横浜の親類へ行ったという堀の母がまだ帰っていなかったのは、座敷へ案内されたお延にとって、意外な機会であった。見方によって、好い都合《つごう》にもなり、また悪い跋《ばつ》にもなるこの機会は、彼女から話しのしにくい年寄を追《お》い除《の》けてくれたと同時に、ただ一人|面《めん》と向き合って、当の敵《かたき》のお秀と応対しなければならない不利をも与えた。
お延に知れていないこの情実は、訪問の最初から彼女の勝手を狂わせた。いつもなら何をおいても小さな髷《まげ》に結《い》った母が一番先へ出て来て、義理ずぐめにちやほやしてくれるところを、今日に限って、劈頭《へきとう》にお秀が顔を出したばかりか、待
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