けではすまなかった。小林の頭にはまだ津田を驚ろかせる材料が残っていた。
百十九
しかし彼の驚ろかし方には、また彼一流の順序があった。彼は一番始めにこんな事を云って津田に調戯《からか》った。
「兄妹喧嘩《きょうだいげんか》をしたんだって云うじゃないか。先生も奥さんも、お秀さんにしゃべりつけられて弱ってたぜ」
「君はまた傍《そば》でそれを聴《き》いていたのか」
小林は苦笑しながら頭を掻《か》いた。
「なに聴こうと思って聴いた訳でもないがね。まあ天然自然《てんねんしぜん》耳へ入ったようなものだ。何しろしゃべる人がお秀さんで、しゃべらせる人が先生だからな」
お秀にはどこか片意地で一本調子な趣《おもむき》があった。それに一種の刺戟《しげき》が加わると、平生の落ちつきが全く無くなって、不断と打って変った猛烈さをひょっくり出現させるところに、津田とはまるで違った特色があった。叔父はまた叔父で、何でも構わず底の底まで突きとめなければ承知のできない男であった。単に言葉の上だけでもいいから、前後一貫して俗にいう辻褄《つじつま》が合う最後まで行きたいというのが、こういう場合相手に対
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