ら》くて耐《たま》らないとはけっして考えなかった。それよりもこの機会を緊張できるだけ緊張させて、親切な今の自分を、強く夫の頭の中に叩《たた》き込んでおく方が得策だと思案した。
こう決心するや否や彼女は嘘《うそ》を吐《つ》いた。それは些細《ささい》の嘘であった。けれども今の場合に、夫を物質的と精神的の両面に亘《わた》って、窮地から救い出したものは、自分が持って来た小切手だという事を、深く信じて疑わなかった彼女には、むしろ重大な意味をもっていた。
その時津田は小切手を取り上げて、再びそれを眺めていた。そこに書いてある額は彼の要求するものよりかえって多かった。しかしそれを問題にする前、彼はお延に云った。
「お延ありがとう。お蔭《かげ》で助かったよ」
お延の嘘はこの感謝の言葉の後に随《つ》いて、すぐ彼女の口を滑《すべ》って出てしまった。
「昨日《きのう》岡本へ行ったのは、それを叔父さんから貰《もら》うためなのよ」
津田は案外な顔をした。岡本へ金策をしに行って来いと夫から頼まれた時、それを断然|跳《は》ねつけたものは、この小切手を持って来たお延自身であった。一週間と経《た》たないうちに、
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