わせるのは厭《いや》です。だからお断りをしておきますが、これは良人とは関係のないお金です。私のです。だから兄さんも黙ってお取りになれるでしょう。私の親切はお受けにならないでも、お金だけはお取りになれるでしょう。今の私はなまじいお礼を云っていただくより、ただ黙って受取っておいて下さる方が、かえって心持が好くなっているのです。問題はもう兄さんのためじゃなくなっているんです。単に私のためです。兄さん、私のためにどうぞそれを受取って下さい」
お秀はこれだけ云って立ち上った。お延は津田の顔を見た。その顔には何《なん》という合図《あいず》の表情も見えなかった。彼女は仕方なしにお秀を送って階子段《はしごだん》を降りた。二人は玄関先で尋常の挨拶《あいさつ》を交《と》り換《かわ》せて別れた。
百十一
単に病院でお秀に出会うという事は、お延にとって意外でも何でもなかった。けれども出会った結果からいうと、また意外以上の意外に帰着した。自分に対するお秀の態度を平生から心得ていた彼女も、まさかこんな場面《シーン》でその相手になろうとは思わなかった。相手になった後《あと》でも、それが偶然の
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