云う事ができなかった。そうしてその云った事はほとんど意味をなさなかった。お秀はすぐその虚《きょ》を充《み》たした。
「それで先刻《さっき》から大変|御機嫌《ごきげん》が悪いのよ。もっともあたしと兄さんと寄るときっと喧嘩《けんか》になるんですけれどもね。ことにこの事件このかた」
「困るのね」とお延は溜息交《ためいきまじ》りに答えた後で、また津田に訊きかけた。
「しかしそりゃ本当の事なの、あなた。あなただって真逆《まさか》そんな男らしくない事を考えていらっしゃるんじゃないでしょう」
「どうだか知らないけれども、お秀にはそう見えるんだろうよ」
「だって秀子さん達がそんな事をなさるとすれば、いったい何の役に立つと、あなた思っていらっしゃるの」
「おおかた見せしめのためだろうよ。おれにはよく解らないけれども」
「何の見せしめなの? いったいどんな悪い事をあなたなすったの」
「知らないよ」
津田は蒼蠅《うるさ》そうにこう云った。お延は取りつく島もないといった風にお秀を見た。どうか助けて下さいという表情が彼女の細い眼と眉《まゆ》の間に現われた。
百六
「なに兄さんが強情なんです
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