たようなものであった。お秀はそれを松明《たいまつ》のように兄の眼先に振り廻した。
「兄さんこそ違ったのです。嫂《ねえ》さんをお貰いになる前の兄さんと、嫂さんをお貰いになった後の兄さんとは、まるで違っています。誰が見たって別の人です」

        百一

 津田から見たお秀は彼に対する僻見《へきけん》で武装されていた。ことに最後の攻撃は誤解その物の活動に過ぎなかった。彼には「嫂さん、嫂さん」を繰り返す妹の声がいかにも耳障《みみざわ》りであった。むしろ自己を満足させるための行為を、ことごとく細君を満足させるために起ったものとして解釈する妹の前に、彼は尠《すくな》からぬ不快を感じた。
「おれはお前の考えてるような二本棒《にほんぼう》じゃないよ」
「そりゃそうかも知れません。嫂さんから電話がかかって来ても、あたしの前じゃわざと冷淡を装《よそお》って、うっちゃっておおきになるくらいですから」
 こういう言葉が所嫌《ところきら》わずお秀の口からひょいひょい続発して来るようになった時、津田はほとんど眼前の利害を忘れるべく余儀なくされた。彼は一二度腹の中で舌打をした。
「だからこいつに電話をかけ
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