ても、彼には相手の機嫌《きげん》を取り返した方が得《とく》か、またはくしゃりと一度に押し潰《つぶ》した方が得かという利害心が働らいていた。その中間を行こうと決心した彼は徐《おもむ》ろに口を開いた。
「お秀、お前には解らないかも知れないがね、兄さんから見ると、お前は堀さんの所へ行ってっから以来、だいぶ変ったよ」
「そりゃ変るはずですわ、女が嫁に行って子供が二人もできれば誰だって変るじゃありませんか」
「だからそれでいいよ」
「けれども兄さんに対して、あたしがどんなに変ったとおっしゃるんです。そこを聞かして下さい」
「そりゃ……」
 津田は全部を答えなかった。けれども答えられないのではないという事を、語勢からお秀に解るようにした。お秀は少し間《ま》をおいた。それからすぐ押し返した。
「兄さんのお腹《なか》の中には、あたしが京都へ告口《つげぐち》をしたという事が始終《しじゅう》あるんでしょう」
「そんな事はどうでもいいよ」
「いいえ、それできっとあたしを眼《め》の敵《かたき》にしていらっしゃるんです」
「誰が」
 不幸な言葉は二人の間に伏字《ふせじ》のごとく潜在していたお延という名前に点火し
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