か、小林さんなんか。あんな人のいう事なんぞ、誰も本気にするものはありゃしないわ」
お秀も小林の一面をよく知っていた。しかしそれは多く彼が藤井の叔父《おじ》の前で出す一面だけに限られていた。そうしてその一面は酒を呑んだ時などとは、生れ変ったように打って違った穏やかな一面であった。
「そうでないよ、なかなか」
「近頃そんなに人が悪くなったの。あの人が」
お秀はやっぱり信じられないという顔つきをした。
「だって燐寸《マッチ》一本だって、大きな家《うち》を焼こうと思えば、焼く事もできるじゃないか」
「その代り火が移らなければそれまででしょう、幾箱|燐寸《マッチ》を抱え込んでいたって。嫂《ねえ》さんはあんな人に火をつけられるような女じゃありませんよ。それとも……」
九十九
津田はお秀の口から出た下半句《しもはんく》を聞いた時、わざと眼を動かさなかった。よそを向いたまま、じっとその後《あと》を待っていた。しかし彼の聞こうとするその後《あと》はついに出て来なかった。お秀は彼の気になりそうな事を半分云ったぎりで、すぐ句を改めてしまった。
「何だって兄さんはまた今日に限って、そ
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