んなつまらない事を心配していらっしゃるの。何か特別な事情でもあるの」
津田はやはり元の所へ眼をつけていた。それはなるべく妹に自分の心を気取《けど》られないためであった。眼の色を彼女に読まれないためであった。そうして現にその不自然な所作《しょさ》から来る影響を受けていた。彼は何となく臆病な感じがした。彼はようやくお秀の方を向いた。
「別に心配もしていないがね」
「ただ気になるの」
この調子で押して行くと彼はただお秀から冷笑《ひや》かされるようなものであった。彼はすぐ口を閉じた。
同時に先刻《さっき》から催おしていた収縮感がまた彼の局部に起った。彼は二三度それを不愉快に経験した後で、あるいは今度も規則正しく一定の時間中繰り返さなければならないのかという掛念《けねん》に制せられた。
そんな事に気のつかないお秀は、なぜだか同じ問題をいつまでも放さなかった。彼女はいったん緒口《いとくち》を失ったその問題を、すぐ別の形で彼の前に現わして来た。
「兄さんはいったい嫂《ねえ》さんをどんな人だと思っていらっしゃるの」
「なぜ改まって今頃そんな質問をかけるんだい。馬鹿らしい」
「そんならいいわ、伺
前へ
次へ
全746ページ中361ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング