お父さんが快よく送金をして下さると思っていらっしゃるの」
「知らないよ」
津田はぶっきら棒に答えた。そうして腹立たしそうに後をつけ加えた。
「だからお母さんはお前の所へ何と云って来たかって、先刻《さっき》から訊《き》いてるじゃないか」
お秀はわざと眼を反《そ》らして縁側《えんがわ》の方を見た。それは彼の前でああ、ああと嘆息して見せる所作《しょさ》の代りに過ぎなかった。
「だから云わない事じゃないのよ。あたし始からこうなるだろうと思ってたんですもの」
九十五
津田はようやくお秀|宛《あて》で来た手紙の中に、どんな事柄《ことがら》が書いてあるかを聞いた。妹の口から伝えられたその内容によると、父の怒りは彼の予期以上に烈しいものであった。月末の不足を自分で才覚《さいかく》するなら格別、もしそれさえできないというなら、これから先の送金も、見せしめのため、当分見合せるかも知れないというのが父の実際の考えらしかった。して見ると、この間彼の所へそう云って来た垣根の繕《つくろ》いだとか家賃の滞《とどこお》りだとかいうのは嘘《うそ》でなければならなかった。よし嘘でないにしたところ
前へ
次へ
全746ページ中344ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング