や二度の経験ではなかった。「お前は器量望みで貰われたのを、生涯《しょうがい》自慢にする気なんだろう」と云ってやりたい事もしばしばあった。
 お秀はやがてきちりと整った眼鼻を揃《そろ》えて兄に向った。
「それで兄さんはどうなすったの」
「どうもしようがないじゃないか」
「お父さんの方へは何にも云っておあげにならなかったの」
 津田はしばらく黙っていた。それからさもやむをえないといった風に答えた。
「云ってやったさ」
「そうしたら」
「そうしたら、まだ何とも返事がないんだ。もっとも家《うち》へはもう来ているかも知れないが、何しろお延が来て見なければ、そこも分らない」
「しかしお父さんがどんなお返事をお寄こしになるか、兄さんには見当《けんとう》がついて」
 津田は何とも答えなかった。お延の拵《こし》らえてくれた※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍《どてら》の襟《えり》を手探《てさぐ》りに探って、黒八丈《くろはちじょう》の下から抜き取った小楊枝《こようじ》で、しきりに前歯をほじくり始めた。彼がいつまでも黙っているので、お秀は同じ意味の質問をほかの言葉でかけ直した。
「兄さんは
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