っていたのである。兄妹《きょうだい》の間に「あの事」として通用する事件は、なるべく聴くまいと用心しても、月末《つきずえ》の仕払や病院の入費の出所《でどころ》に多大の利害を感じない訳に行かなかった津田は、またこの二つのものが互に困絡《こんがら》かって、離す事のできない事情の下《もと》にある意味合《いみあい》を、お秀よりもよく承知していた。彼はどうしても積極的に自分から押して出なければならなかった。
「何と云って来たい」
「兄さんの方へもお父さんから何か云って来たでしょう」
「うん云って来た。そりゃ話さないでもたいていお前に解ってるだろう」
 お秀は解っているともいないとも答えなかった。ただ微《かす》かに薄笑の影を締《しま》りの好い口元に寄せて見せた。それがいかにも兄に打ち勝った得意の色をほのめかすように見えるのが津田には癪《しゃく》だった。平生は単に妹であるという因縁《いんねん》ずくで、少しも自分の眼につかないお秀の器量が、こう云う時に限って、悪く彼を刺戟《しげき》した。なまじい容色が十人並以上なので、この女は余計|他《ひと》の感情を害するのではなかろうかと思う疑惑さえ、彼にとっては一度
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