話じゃ痛みも何にもないようなお話しだったのにね」
「お延は知らないんだ」
「じゃ嫂さんが帰ってから後で痛み始めたの」
「なに本当はお延のお蔭《かげ》で痛み始めたんだ」とも云えなかった津田は、この時急に自分が自分に駄々《だだ》っ子《こ》らしく見えて来た。上部《うわべ》はとにかく、腹の中がいかにも兄らしくないのが恥《は》ずかしくなった。
「いったいお前の用というのは何だい」
「なに、そんなに痛い時に話さなくってもいいのよ。またにしましょう」
津田は優《ゆう》に自分を偽《いつわ》る事ができた。しかしその時の彼は偽るのが厭《いや》であった。彼はもう局部の感じを忘れていた。収縮は忘れればやみ、やめば忘れるのをその特色にしていた。
「構わないからお話しよ」
「どうせあたしの話だから碌《ろく》な事じゃないのよ。よくって」
津田にも大よその見当《けんとう》はついていた。
九十四
「またあの事だろう」
津田はしばらく間《ま》をおいて、仕方なしにこう云った。しかしその時の彼はもう例《いつも》の通り聴《き》きたくもないという顔つきに返っていた。お秀は心でこの矛盾を腹立たしく感じた。
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