ぜ気に喰わないのだろうか。それはお秀にとって何の問題にもならなかった。ただしお秀には姑《しゅうと》があった。そうしてお延は夫を除けば全く自分自身の主人公であった。しかしお秀はこの問題に関聯《かんれん》してこの相違すら考えなかった。
 お秀がお延から津田の消息を電話で訊《き》かされて、その翌日病院へ見舞に出かけたのは、お時の行く小一時間前、ちょうど小林が外套《がいとう》を受取ろうとして、彼の座敷へ上り込んだ時分であった。

        九十二

 前の晩よく寝られなかった津田は、その朝看護婦の運んで来てくれた膳《ぜん》にちょっと手を出したぎり、また仰向《あおむけ》になって、昨夕《ゆうべ》の不足を取り返すために、重たい眼を閉《つぶ》っていた。お秀の入って来たのは、ちょうど彼がうとうとと半睡状態に入《い》りかけた間際《まぎわ》だったので、彼は襖《ふすま》の音ですぐ眼を覚《さ》ました。そうして病人に斟酌《しんしゃく》を加えるつもりで、わざとそれを静かに開けたお秀と顔を見合せた。
 こういう場合に彼らはけっして愛嬌《あいきょう》を売り合わなかった。嬉《うれ》しそうな表情も見せ合わなかった。彼
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