か》け上って、津田の机の前に坐るや否や、その上に突ッ伏してわっと泣き出した。
八十九
幸いにお時が下から上《あが》って来なかったので、お延は憚《はばか》りなく当座の目的を達する事ができた。彼女は他《ひと》に顔を見られずに思う存分泣けた。彼女が満足するまで自分を泣き尽した時、涙はおのずから乾いた。
濡《ぬ》れた手巾《ハンケチ》を袂《たもと》へ丸め込んだ彼女は、いきなり机の抽斗《ひきだし》を開けた。抽斗は二つ付いていた。しかしそれを順々に調べた彼女の眼には別段目新らしい何物も映らなかった。それもそのはずであった。彼女は津田が病院へ入る時、彼に入用《いりよう》の手荷物を纏《まと》めるため、二三日前《にさんちまえ》すでにそこを捜《さが》したのである。彼女は残された封筒だの、物指《ものさし》だの、会費の受取だのを見て、それをまた一々|鄭寧《ていねい》に揃《そろ》えた。パナマや麦藁製《むぎわらせい》のいろいろな帽子が石版で印刷されている広告用の小冊子めいたものが、二人で銀座へ買物に行った初夏《しょか》の夕暮を思い出させた。その時夏帽を買いに立寄った店から津田が貰って帰ったこ
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