た。彼は自分が今度地位を得て朝鮮に行く事を話した。彼のいうところによれば、その地位は未来に希望のある重要のものであった。彼はまた探偵に跟《つ》けられた話をした。それは津田といっしょに藤井から帰る晩の出来事だと云って、驚ろいたお延の顔を面白そうに眺めた。彼は探偵に跟けられるのが自慢らしかった。おおかた社会主義者として目指《めざ》されているのだろうという説明までして聴かせた。
 彼の談話には気の弱い女に衝撃《ショック》を与えるような部分があった。津田から何にも聞いていないお延は、怖々《こわごわ》ながらついそこに釣り込まれて大切な時間を度外においた。しかし彼の云う事を素直にはいはい聴いているとどこまで行ってもはてしがなかった。しまいにはこっちから催促して、早く向うに用事を切り出させるように仕向けるよりほかに途《みち》がなくなった。彼は少しきまりの悪そうな様子をしてようやく用向を述べた。それは昨夕《ゆうべ》お延とお時をさんざ笑わせた外套《がいとう》の件にほかならなかった。
「津田君から貰うっていう約束をしたもんですから」
 彼の主意は朝鮮へ立つ前ちょっとその外套を着て見て、もしあんまり自分の身
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