おかしさを噛《か》み殺そうとして、お延の前で悶《もだ》え苦しんだ。わずか「小林」という言葉を口へ出すのでさえよほど手間取った。
 この不時の訪問者をどう取り扱っていいか、お延は解らなかった。厚い帯を締《し》めかけているので、自分がすぐ玄関へ出る訳に行かなかった。といって、掛取《かけとり》でも待たせておくように、いつまでも彼をそこに立たせるのも不作法であった。姿見《すがたみ》の前に立《た》ち竦《すく》んだ彼女は当惑の眉《まゆ》を寄せた。仕方がないので、今|出《で》がけだから、ゆっくり会ってはいられないがとわざわざ断らした後で、彼を座敷へ上げた。しかし会って見ると、満更《まんざら》知らない顔でもないので、用だけ聴いてすぐ帰って貰う事もできなかった。その上小林は斟酌《しんしゃく》だの遠慮だのを知らない点にかけて、たいていの人に引《ひけ》を取らないように、天から生みつけられた男であった。お延の時間が逼《せま》っているのを承知の癖に、彼は相手さえ悪い顔をしなければ、いつまで坐り込んでいても差支《さしつか》えないものと独《ひと》りで合点《がてん》しているらしかった。
 彼は津田の病気をよく知ってい
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