書いたのだというものがあったなら、その人は眼の明いた盲目《めくら》です。その人こそ嘘吐《うそつき》です。どうぞこの手紙を上げる私を信用して下さい。神様はすでに信用していらっしゃるのですから」
 お延は封書を枕元へ置いて寝た。

        七十九

 始めて京都で津田に会った時の事が思い出された。久しぶりに父母《ちちはは》の顔を見に帰ったお延は、着いてから二三日《にさんち》して、父に使を頼まれた。一通の封書と一帙《いっちつ》の唐本《とうほん》を持って、彼女は五六町|隔《へだた》った津田の宅《うち》まで行かなければならなかった。軽い神経痛に悩まされて、寝たり起きたりぶらぶらしていた彼女の父は、病中の徒然《つれづれ》を慰《なぐさ》めるために折々津田の父から書物を借り受けるのだという事を、お延はその時始めて彼の口から聞かされた。古いのを返して新らしいのを借りて来るのが彼女の用向であった。彼女は津田の玄関に立って案内を乞うた。玄関には大きな衝立《ついたて》が立ててあった。白い紙の上に躍《おど》っているように見える変な字を、彼女が驚ろいて眺めていると、その衝立の後《うしろ》から取次に現われた
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