笑いながら聴いていた。彼女に云わせれば、こうして早く帰るのも、あんなに遅くなった昨日《きのう》の結果を、今度は繰《く》り返《かえ》させたくないという主意からであった。
彼女は急いでそこへ来た電車に乗った。そうして車の中から叔父に向って「さよなら」といった。叔父は「さよなら、由雄さんによろしく」といった。二人が辛《かろ》うじて別れの挨拶《あいさつ》を交換するや否や、一種の音と動揺がすぐ彼女を支配し始めた。
車内のお延は別に纏《まと》まった事を考えなかった。入れ替り立ち替り彼女の眼の前に浮ぶ、昨日《きのう》からの関係者の顔や姿は、自分の乗っている電車のように早く廻転するだけであった。しかし彼女はそうして目眩《めまぐる》しい影像《イメジ》を一貫している或物を心のうちに認めた。もしくはその或物が根調《こんちょう》で、そうした断片的な影像が眼の前に飛び廻るのだとも云えた。彼女はその或物を拈定《ねんてい》しなければならなかった。しかし彼女の努力は容易に成効《せいこう》をもって酬いられなかった。団子を認めた彼女は、ついに個々を貫いている串《くし》を見定める事のできないうちに電車を下りてしまった。
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