探させましょうか」
「来れば書留だから、郵便函の中へ投げ込んで行くはずはないよ」
「そうね、だけど念のためだから、あたしちょいと見て来るわ」
 御延は玄関の障子《しょうじ》を開けて沓脱《くつぬぎ》へ下りようとした。
「駄目だよ。書留がそんな中に入ってる訳がないよ」
「でも書留でなくってただのが入ってるかも知れないから、ちょっと待っていらっしゃい」
 津田はようやく茶の間へ引き返して、先刻《さっき》飯を食う時に坐った座蒲団《ざぶとん》が、まだ火鉢《ひばち》の前に元の通り据《す》えてある上に胡坐《あぐら》をかいた。そうしてそこに燦爛《さんらん》と取り乱された濃い友染模様《ゆうぜんもよう》の色を見守った。
 すぐ玄関から取って返したお延の手にははたして一通の書状があった。
「あってよ、一本。ことによると御父さまからかも知れないわ」
 こう云いながら彼女は明るい電灯の光に白い封筒を照らした。
「ああ、やっぱりあたしの思った通り、御父さまからよ」
「何だ書留じゃないのか」
 津田は手紙を受け取るなり、すぐ封を切って読み下した。しかしそれを読んでしまって、また封筒へ収めるために巻き返した時には、彼
前へ 次へ
全746ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング