内へ響き渡った。合間合間には幕の後《うしろ》で拍子木《ひょうしぎ》を打つ音が、攪《か》き廻《まわ》された注意を一点に纏《まと》めようとする警柝《けいたく》の如《よう》に聞こえた。
不思議なのは観客であった。何もする事のないこの長い幕間《まくあい》を、少しの不平も云わず、かつて退屈の色も見せず、さも太平らしく、空疎な腹に散漫な刺戟《しげき》を盛って、他愛《たわい》なく時間のために流されていた。彼らは穏和《おだや》かであった。彼らは楽しそうに見えた。お互の吐《は》く呼息《いき》に酔っ払った彼らは、少し醒《さ》めかけると、すぐ眼を転じて誰かの顔を眺めた。そうしてすぐそこに陶然たる或物を認めた。すぐ相手の気分に同化する事ができた。
席に戻った二人は愉快らしく四辺《あたり》を見廻した。それから申し合せたように問題の吉川夫人の方を見た。婦人の双眼鏡はもう彼らを覘《ねら》っていなかった。その代り双眼鏡の主人もどこかへ行ってしまった。
「あらいらっしゃらないわ」
「本当ね」
「あたし探《さが》してあげましょうか」
百合子はすぐ自分の手に持ったこっちのオペラグラスを眼へ宛《あ》てがった。
「いない
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