って相手ほど平生を失わなかった。黙って自分の前にある猪口《ちょく》を干した。小林はすぐそれへなみなみと注《つ》いだ。
「あの眼つきを見ろ」
薄笑いをした津田はようやく口を開《ひら》いた。
「君見たいにむやみに上流社会の悪口をいうと、さっそく社会主義者と間違えられるぞ。少し用心しろ」
「社会主義者?」
小林はわざと大きな声を出して、ことさらにインヴァネスの男の方を見た。
「笑わかせやがるな。こっちゃ、こう見えたって、善良なる細民の同情者だ。僕に比べると、乙に上品ぶって取り繕《つく》ろってる君達の方がよっぽどの悪者だ。どっちが警察へ引っ張られて然《しか》るべきだかよく考えて見ろ」
鳥打の男が黙って下を向いているので、小林は津田に喰ってかかるよりほかに仕方がなかった。
「君はこうした土方や人足をてんから人間扱いにしないつもりかも知れないが」
小林はまたこう云いかけて、そこいらを見廻したが、あいにくどこにも土方や人足はいなかった。それでも彼はいっこう構わずにしゃべりつづけた。
「彼らは君や探偵よりいくら人間らしい崇高な生地《きじ》をうぶのままもってるか解らないぜ。ただその人間らしい美し
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