nical に働く、機械よりも巧妙に働く、腕が必要である。が、われわれの方は人間であるという事が大切な事で、社会上よりいうときは御互に社会の一員であるけれども、われわれの方は貴方がたに比べて人間という事が大事になる。
 ところがここに腕の人でもなく頭の人でもない一種の人がある。資本家というものがそれである。この capitalist になると、腕も人間も大切でなく、唯|金《かね》が大切なのである。capitalist から金をとり上げればゼロである。何にも出来ない。同様にあなた方から腕をとり上げても駄目である。われわれは腕も金もとり上げられてもいいが、人間をとり上げられてはそれこそ大変である。
 あなた方の方では技術と自然との間に何らの矛盾もない。しかし私どもの方には矛盾がある。即ちごまかしがきくのです。悲しくもないのに泣いたり、嬉しくもないのに笑ったり、腹も立たないのに怒ったり、こんな講壇の上などに立ってあなた方から偉く見られようとしたりするので――これは或《ある》程度まで成功します。これは一種の art である。art と人間の間には距離を生じて矛盾を生じやすい。あなた方にも人格に
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