無題
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)度重《たびかさ》なって
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)面白い御話も出来|兼《か》ねます。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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私はこの学校は初めてで――エー来るのは初めてだけれども、御依頼を受けたのは決して初めてではありません。二、三年前、田中《たなか》さんから頼まれたのです。その頃頼みに来て下さった方はもう御卒業なさったでしょう。それ以来十数回の御依頼を受けましたが、みんな御断りしました。断るのが面白いからではなく、やむをえないからで、このやむをえない事が度重《たびかさ》なって御気の毒なので、その結果今日やって来ました。言わば根《こん》くらべで根《こん》がつきて出て来たようなしまつであります。だから面白い御話も出来|兼《か》ねます。今からとにかく一時間ばかり御話します。それ故《ゆえ》、題なんかありません。
私は専門があなた方とは全然違っています。こんな機会でなければ顔を合わすことはありませんが、これでも私は工業の部門に属する
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