。露西亜《ロシア》の軍艦がどこで沈没したろうかなどと思い浮かべる暇も出なかった。ただ頭へぴかぴかと、平たい研《と》ぎ澄《すま》したものが映った。
 余は大和《やまと》ホテルの二階からもこの晴やかな色を眺めた。ホテルの玄関を出たり這入《はい》ったりするときにもこの鋭い光の断片に眼を何度となく射られた。それでも単に烈《はげ》しい奇麗《きれい》な色と光だなと感ずるだけであった。佐藤から港内を見せてやるからと案内されるまでは、とうてい港内は人間の這入るところではないくらいに、頭の底で、無意識ながら分別していたらしい。
 さあ行くんだと催促された時は、なるほど旅順に来る以上、催促されなければならんはずの場処へ行くんだと思った。今日の同勢は朝大連から来た田中君を入れて五人である。港務部を這入《はい》るときに水兵がこの五人に礼をした。兵隊に礼をされたのは生れてこれが初《はじめ》てであった。佐藤が真先に中へ這入って、やがて出て来たから、もう舟に乗れるのかと思ったら、おい這入れ這入れという。我々は石垣の上に立っていた。足元にはすぐ小蒸気《こじょうき》が繋《つな》いである。我々の足は、家の方より、むしろ水
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