らなければならないように伊藤君は頼むし、何だかやれそうもない気分ではあるし、かたがた安楽椅子に尻《しり》を埋《うず》めて、苦《にが》く渋り出した。すると橋本がにやにや笑いながら、まあやってやるさと傍《はた》から余計な事を云う。実を云うと、講演は馬車でホテルに着くや否や、ここの和木君《わきくん》からも頼まれている。もっともこの方《ほう》は暇がないので、頼《たの》まれ放《ぱな》しの体《てい》であるが、大連に帰ればそう多忙らしく見せる訳には行かない。橋本はそこをよく見破っているので、君そう云うときには快よく承諾するものだよとか君のような人はやる義務があるさとかいろいろな口を出す。余の大連でしゃべらせられたのは全くこの男の御蔭《おかげ》である。しかも短い時日のうちに二遍もやらせられた。その内の一遍では、云う事が無くって仕方がなかったから、私は今晩、なぜ講演というものが、そう容易にできるものでないか、すなわち講演ができない訳を講演致しますと云って、妙な事を弁じてしまった。それを是公《ぜこう》が聞きに来ていて、うん貴様はなかなか旨《うま》い、これからどこへ出て演説しようと勝手だ、おれが許してやると
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