建の兵舎がある。もとは橋をかけて渡ったものと思われるが、今では下りる事もできない。兵舎の背はもとより、山に囲われて、外からは見えなくなっている。三人は空濠《からぼり》を横に通り越してなお高く上った。とうとう四方にあるものは山の頭ばかりになった。そうしてそれが一つ残らず昔の砲台であった。中尉はそれらの名前をことごとく諳《そら》んじていた。余は遮《さえぎ》るもののない高い空の真下に立って、数限りもない山の背を見渡しながら、砲台巡《ほうだいめぐ》りも容易な事ではないと思った。

        二十六

 大連に着いてから二三日すると、満洲日々《まんしゅうにちにち》の伊藤君から滞留中《たいりゅうちゅう》に是非一度講演をやって貰いたいという依頼であった。ええ都合ができればと受合ったようなまた断ったような軽い挨拶《あいさつ》をして旅順に来た。するとその伊藤君が我々より一日前に同じ大和《やまと》ホテルに泊っていたので、ただ、やあ来ているねぐらいでは事がすまなくなった。伊藤君の話によると、余の承諾を得て講演を開くと云う事を、もう自分の新聞に広告してしまったと云うんだから、たちまち弱った。どうしてもや
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