後《うしろ》にいる余の方をふりむいて、にやにや笑いながら、また鞭を鳴らし出した。馬も存外平気なもので、そのままとうとう大和《やまと》ホテルまで帰って来た。
橋本と余はこう云う馬車の中で、こう云う路の上に揺振《ゆすぶ》られべく旧市街から出立した。あれがステッセル将軍の家でと云うのを遠くから見ると、なかなか立派にできている。戦争の烈《はげ》しくならない時は、将軍がみごとな馬車を駆《か》ってそこいらを乗り廻しているのが遥《はるか》の先から見えたそうである。A君の指《ゆびさ》して教えられた中《うち》で、ただ一つ質素な板囲《いたがこい》の小さい家があった。それがまるで日本の内地で見る普通の木造なのだから珍らしかった。何とか云う有名な将軍の住宅だと説明されたが、不幸にしてその有名な将軍の名を忘れてしまった。何でも非常に人望のある人で、戦争のときも一番先に打死《うちじに》をしたのだそうである。ああ云う質素の家に住んでおられたのも、一つは人望のあった原因になっているのでありましょうとA君は丁寧に敬慕の意を表《ひょう》される。この将軍は戦争だけには熱心で、ほかの事にはよほど無頓着《むとんじゃく》であっ
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