た人らしい。この辺にある露国の将軍などの住宅は皆それ相応に立派なものばかりである。新市街の白仁長官《しらにちょうかん》の家を訪《たず》ねた時、結構な御住居《おすまい》だが、もとは誰のいた所ですかと聞いたら、何でもある大佐の家だそうですと答えられた。こう云う家に住んで、こういう景色《けしき》を眼の下に見れば、内地を離れる賠償《ばいしょう》には充分なりますねと云ったら、白仁君も笑いながら、日本じゃとても這入《はい》れませんと云われたくらいである。
 そのうち馬車は無鉄砲に山路《やまみち》を上って、旅順の市街を遥の下にうちやるようになった。A君は坂の途中で車を留めて、私は近路を歩いて、御先へ行って御待ち申しますと云いながら、左手の急な岨路《そばみち》をずんずん登って行った。我々の車はまたのそのそ動き出した。

        二十五

 下を見下《みおろ》すと、山の側面はそれほど急でないが、樹《き》と名のつくような青いものはまるで眸《ひとみ》を遮《さえぎ》らない。一眼に麓《ふもと》まで透《す》かされるのみならず、麓からさき一里余の畠《はたけ》が真直《まっすぐ》に眉《まゆ》の下に集まって来る。
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