その中には図書館がある。倶楽部《クラブ》がある。運動場がある。演武場がある。部下の住宅は無論ある。
倶楽部では玉を突いていた。図書館には沙翁《さおう》全集があった。ポルグレーヴの経済|字彙《じい》があった。余の著書も二三冊あった。
ここは柔道の道場に使っていますが、時によると講談をやったり演説をやったりしますと云う相生さん自身の説明について、中を覗《のぞ》き込むと、なるほど道場にはちょうど好い建物がある。その奥に高座《こうざ》ができていて、いつでも寄席《よせ》もしくは講演を開くような設備もある。講演てどんな講演ですかと聞き返したら、相生さんは、まあ内地から来られた人だとか何とかいうのを頼んでやりますと答えられた。ことによると、遠からぬうちに捕《つか》まって、ここへ引っ張り出されはしまいかと、その時すぐ気がついたが、真逆《まさか》私《わたし》はどうぞ廃《よ》しにして下さいと、頼まれもしないうちに断るのも失礼だと思って、はあなるほどと首肯《うなず》いて通り過ぎた。
最後にもっとも長い二階建の一棟《ひとむね》の前に出た。これが共同生活をやらしている所でと、相生さんが先へ這入《はい》る
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