その上に腰をかけて談判をするのだそうだが、横着な事には大きな括枕《くくりまくら》さえ備えつけてある。しかし肱《ひじ》を突くためか、頭を載《の》せるためかは聞き糺《ただ》して見なかった。彼等は談判をしながら阿片《あへん》を飲む。でなければ煙草《たばこ》を吸う。その煙管《きせる》は煙管と云うよりも一種の器械と評した方が好いくらいである。錫《すず》の胴《どう》に水を盛って雁首《がんくび》から洩《も》れる煙がこの水の中を通って吸口まで登ってくる仕掛なのだから、慣れないうちは水を吸い上げて口中へ入れる恐れがある。一服やって御覧なさいと勧められたから、やって見たが、ごぼごぼ音がしてまるで脂《やに》を呑むような心持がした。
 二階が荷主の室《へや》だと云うんで、二階へ上《あが》って見ると、なるほど室がたくさん並んでいる。その中《うち》の一つでは四人《よつたり》で博奕《ばくち》を打っていた。博奕の道具はすこぶる雅《が》なものであった。厚みも大きさも将棋《しょうぎ》の飛車角《ひしゃかく》ぐらいに当る札を五六十枚ほど四人で分けて、それをいろいろに並べかえて勝負を決していた。その札は磨いた竹と薄い象牙《ぞう
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