今日も脚気《かっけ》になるかなど云っては出かけた。
こう云う連中だから、大概は級の尻《しり》の方に塊《かた》まって、いつでも雑然と陳列《ちんれつ》されていた。余のごときは、入学の当時こそ芳賀矢一《はがやいち》の隣に坐っていたが、試験のあるたんびに下落して、しまいには土俵際《どひょうぎわ》からあまり遠くない所でやっと踏《ふ》み応《こた》えていた。それでも、みんな得意であった。級の上にいるものを見て、なんだ点取がと云って威張っていたくらいである。そうして、稍《やや》ともすると、我々はポテンシャル・エナージーを養うんだと云って、むやみに牛肉を喰って端艇《ボート》を漕《こ》いだ。試験が済むとその晩から机を重ねて縁側《えんがわ》の隅《すみ》へ積み上げて、誰も勉強のできないような工夫をして、比較的広くなった座敷へ集って腕押《うでおし》をやった。岡野という男はどこからか、玩具《おもちゃ》の大砲を買って来て、それをポンポン座敷の壁へ向って発射した。壁には穴がたくさん開《あ》いた。試験の成績が出ると、一人では恐《こわ》いからみんなを駆《か》り催《もよお》して揃って見に行った。するとことごとく六十代で際
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