造船所の須田君《すだくん》からいっしょに晩食《ばんめし》でも食おうと云う案内があったが、例のごとく腹が痛むので、残念ながら辞退して、寝室で肉汁《ソップ》を飲んで寝てしまった。朝起きるや否や、もう好かろうと思って、腹の近所へ神経をやって、探《さぐ》りを入れて見ると、やッぱり変だ。何だか自分の胃が朝から自分を裏切ろうと工《たく》んでいるような不安がある。さてどこが不安だろうと、局所を押えにかかると、どこも応じない。ただ曇った空のように、鈍痛《どんつう》が薄く一面に広がっている。苦《にが》い顔をして食堂へ下りて飯をすましてまた室《へや》へ帰ってぼんやりしていると、河村さんが戸口まで来て、今夜満鉄のものが主人役になってあなたがた二三名を扇芳亭《せんぼうてい》へ招待したいからと云う叮嚀《ていねい》な御挨拶《ごあいさつ》である。どうもせっかくですが、実はこれこれでと断ると、そうですか、実は総裁も今夜は所労で出られませんと答えて帰られた。
河村君が帰るや否や股野が案内もなくやって来た。今日は襟《えり》の開《あ》いた着物を着て、ちゃんと白い襯衣《シャツ》と白い襟《えり》をかけているから感心した。股野
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