だな》を見渡すと書物がぎっしり詰っている。その書物が一々違った色をしてそうしてことごとく別々な名を持っている。煩《わずら》わしい事|夥《おびただ》しい。何の酔興《すいきょう》でこんな差別をつけたものだろう、また何の因果《いんが》でそれを大事そうに列《なら》べ立てたものだろう。実にしち面倒臭い世の中だ。早く死んじまえと云う気になった。
 禎二《ていじ》さんが蒲団《ふとん》の横へ来て、どうですと尋ねたが、返事をするのが馬鹿気《ばかげ》ていて何とも云う了見《りょうけん》にならない。代診が来て、これじゃ旅行は無理ですよ、医者として是非|止《と》めなくっちゃならないと説諭したが、御尤《ごもっと》もだとも不尤《ふもっと》もだとも答えるのが厭《いや》だった。
 そのうち日は容赦なく経《た》った。病気は依然として元のところに逗留《とうりゅう》していた。とうとう出発の前日になって、電話で中村へ断った。中村は御大事になさいと云って先へ立ってしまった。

        二

 小蒸気《こじょうき》を出て鉄嶺丸《てつれいまる》の舷側《げんそく》を上《のぼ》るや否や、商船会社の大河平《おおかわひら》さんが、ど
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