つか》の船で馬関から乗るが、好いかと云う手紙が来た。それも、ちゃんと心得た。次には用事ができたから一船《ひとふね》延ばすがどうだと云う便《たよ》りがあった。これも訳なく承知した。しかし承知している最中に、突然急性胃カタールでどっとやられてしまった。こうなるといかに約束を重んずる余も、出発までに全快するかしないか自分で保証し悪《にく》くなって来た。胸へ差し込みが来ると、約束どころじゃない。馬関も御茶代も、是公も大連もめちゃめちゃになってしまう。世界がただ真黒な塊《かたまり》に見えた。それでも御供旅行の好奇心はどこかに潜《ひそ》んでいたと見えて、先へ行ってくれと云う事は一口も是公に云わなかった。
そのうち胃のところがガスか何かでいっぱいになった。茶碗の音などを聞くと腹が立った。人間は何の必要があって飯などを食うのか気の知れない動物だ、こうして氷さえ噛《かじ》っていれば清浄潔白《しょうじょうけっぱく》で何も不足はないじゃないかと云う気になった。枕元《まくらもと》で人が何か云うと、話をしなくっちあ生きていられないおしゃべりほど情ない下賤《げせん》なものはあるまいと思った。眼を開いて本棚《ほん
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