大した所へ連れて行ってくれた試《ためし》がない。「今度《こんだ》いっしょに連れてってやろうか」もおおかたその格《かく》だろうと思ってただうんと答えておいた。この気のない返事を聞いた総裁は、まあ海外における日本人がどんな事をしているか、ちっと見て来るがいい。御前みたように何にも知らないで高慢な顔をしていられては傍《はた》が迷惑するからとすこぶる適切めいた事を云う。何でも是公に聞いて見ると馬関《ばかん》や何かで我々の不必要と認めるほどの御茶代などを宿屋へ置くんだそうだから、是公といっしょに歩いて、この尨大《ぼうだい》な御茶代が宿屋の主人下女下男にどんな影響を生ずるかちょっと見たくなった。そこで、じゃ君の供をしてへいへい云って歩いて見たいなと注文をつけたら、そりゃどうでも構わない、いっしょが厭《いや》なら別でも差支《さしつか》えないと云う返事であった。
それから御供をするのはいつだろうかと思って、面白半分に待っていると、八月|半《なか》ばに使が来ていつでも立てる用意ができてるかと念を押した。立てると云えば立てるような身上《しんじょう》だから立てると答えた。するとまた十日ほどしていつ何日《い
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