吉《たかみねじょうきち》さんが来て、高粱からウィスキーを採《と》るとか採らないとかしきりに研究していたそうである。ウィスキーがこの試験場でできるようになったら是公がさぞ喜んで飲む事だろう。
 陶器を作っている部屋もあったようだが、これはほんの試験中で、並製も上製もないようであった。
 中央試験所を出て、五六町来ると、馬車を下りて草の中に迷い込んだ。路のない谷へ下りたり、足場のない岡へ上《のぼ》ったりするので、汗が出て、顔の皮がひりひりして来た。その上胃がしきりに痛む。是公に聞いて見ると、射撃場へ連れて行ってやるんだと云うから、例の連れて行ってやると云う厚意に免《めん》じて、腹の痛いのを我慢して目的の家まで行ってすぐ椅子《いす》の上へ腰をかけてしまった。是公がしきりに鉄砲の話をするようであったが、とんと頭に響かない。何でもこの家だけは会社から寄附してやった。これでも二千円とか三千円とかかかったという事だけがようやく耳に這入《はい》った。
 そこへ汚《きた》ない支那人が二三人、奇麗《きれい》な鳥籠《とりかご》を提《さ》げてやって来た。支那人て奴《やつ》は風雅《ふうが》なものだよ。着るものも
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