通の石鹸と別に変ったところもないようだから、ただなるほどと云ったなり眺めていた。すると、この石鹸に面白いところは、塩水に溶解するから奇体ですよとの追加があったので、急に貰って行く気になって葢《ふた》をした。
 柞蚕《さくさん》から取った糸を並べて、これが従来の奴ですと云うのを見ると、なるほど色が黒い。こっちは精製した方でと、傍《そば》に出されると全く白い。かつ節《ふし》なしにでき上っている。これで織ったのがありますかと聞いて見ると、あいにく有りませんと云う答である。しかしもし織ったらどんなものができるでしょうと聞くと、羽二重《はぶたえ》のようなものができるつもりですと云う。その上|価段《ねだん》が半分だと云う。柞蚕《さくさん》から羽二重《はぶたえ》が織れて、それが内地の半額で買えたらさぞ善《よ》かろう。
 高粱酒《こうりょうしゅ》を出して洋盃《コップ》に注《つ》ぎながら、こっちが普通の方で、こっちが精製した方でと、またやりだしたから、いや御酒はたくさんですと断った。さすが酒好きの是公も高粱酒の比較飲みは、思わしくないと見えて、並製も上製も同じく謝絶した。是公の話によると、この間|高峯譲
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